月ノ浦惣庄公事置書 (文春文庫)



月ノ浦惣庄公事置書 (文春文庫)
月ノ浦惣庄公事置書 (文春文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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ふさいちの感想

 中世の土地をめぐる公事(裁判)という非常に地味な話でありながら、合戦あり、男女の恋愛あり、そして親子のすれ違う人間関係ありと非常に面白い。中世のミステリという新分野を描き、さすがに大文豪の名を冠した賞を受賞した作品である。
この歴史小説が凄い!

歴史小説ってさあ。幕末だったり戦国だったり風雲急を告げたり。武将だったり忍者だったりもう食傷気味。時代小説ってさあ。書き割りみたいなお白州だとか人情だとか(以下略)。
と、文句を言いつつ手応えのある時代物・歴史物を捜している人には、お勧め。これぞ、歴史小説。つまり、出来合いの「お約束」におもねることなく、現在とは異なる制度・社会背景をかみ砕き、物語世界として成立せしめた作者の技量を堪能できます。
 舞台は室町時代の近江の惣村。農民が自治する小さな世界。その或る村に新たな代官が赴任したことから起こった事件は、惣村の構成員、惣村を領有する公家・寺社の荘園領主、実際の支配にあたる代官、その代官職を請け負った金融業者、それらに対する裁判権を持つ室町幕府・・・etcが錯綜する展開を迎え、めまいを誘います。でも大丈夫。本来難解な中世法の世界に自然に引き込む文体が、この作品の魅力。そして、フラットな近代国家に飼い慣らされた現代人の理解を超え中世法理の世界そのものが、最大のトリックなのです。しかも、全ての設定は、網野善彦や笠松宏至・勝俣鎮夫氏らの膨大な中世法制史の研究成果に則っていて、実に周到。(それにしては「家族」の描き方が近代的だなあ、というツッコミは暫く措くとして。)
 ちなみに、月浦の舞台となった近江菅浦は、今も四足門が残り、中世の景色を忍ぶことのできる場所です。読まれた方は、是非。




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